ソウル&ファンク入門
— 体が先に分かる音楽
分析するより先に、肩が動いていたら勝ち。
ここまでの4回は「地図」や「編成」から音楽に近づいてきましたが、ソウルとファンクだけは少し違います。理屈より先に、リズムが体を動かします。この連載では、その“動かす力”がどこから来ているのかを、歴史とレーベルの両面からほどいていきます。
もくじ
ソウルとファンクは、どう違うのか
ソウルは、教会のゴスペルの歌唱法を世俗の恋愛や生活の歌に持ち込んだ、1950年代末に生まれた音楽です。主役は圧倒的に「歌」。ファンクはその後、1960年代後半にソウルから枝分かれし、歌のメロディよりもリズムそのものを主役に据えた音楽です。極端に言えば、ソウルは“歌うための音楽”、ファンクは“踊る(体を動かす)ための音楽”。両者は兄弟のように地続きなので、この連載ではまとめて扱います。
60秒でわかる、系譜の地図
細かい枝分かれは無限にありますが、まずはこの4つの水脈だけ押さえておけば十分です。
1960年代
1960年代
1960年代末〜70年代
1970年代
※ この後もディスコ、ネオソウルへと続きますが、まずはこの4水脈で十分。あとは1枚ずつ辿っていけば地図は自然と広がります。
グルーヴで選ぶ — リズム隊がスターになった音楽
ロックやジャズでは主役になりがちなギターソロや歌のメロディが、ファンクでは脇に回ります。代わりに主役になるのが、ベースとドラムの噛み合わせ、いわゆるグルーヴです。ジェームス・ブラウンが自身のバンドに求め続けた「頭(1拍目)を強く感じさせる」演奏、通称“ザ・ワン”の哲学は、その後のファンクやヒップホップの土台になりました。歌詞やメロディが分からなくても、グルーヴだけで良し悪しが体感できる——これがソウル・ファンクを聴く一番の近道です。
最初の5枚 — まず体で確かめる
頭で理解する前に、まずは体を動かしながら聴いてみてください。どれも歴史的な評価と実際の楽しさが一致する、間違いのない5枚です。
1965年、Stax。歌の熱量そのものが楽器のような一枚。ホーンセクションと絡み合う歌声のうねりを、まずここで体感してください。
1967年。マッスル・ショールズの演奏陣とのセッションで開花した、圧倒的な歌唱力。タイトル曲、そして「リスペクト」収録の一枚です。
1970年。ワンコードのグルーヴに乗せた掛け合いが延々と続く、ファンクという発明の実演記録。理屈より先に体が動きます。
1969年。男女混成・人種混成のバンドが鳴らす、多幸感あふれるファンク・ロック。ソウル/ファンクの“楽しさ”の側面を代表する一枚です。
1971年。ベトナム戦争や公害、貧困を歌に込めた、モータウン発の一大コンセプト・アルバム。ソウルが“社会を歌う音楽”にもなり得ることを証明しました。
※ この棚にはまだソウル・ファンクの一枚が加わっていません。見つけたらここに追記します。
レーベルは“味”で選べる
ジャズと同じく、ソウル・ファンクもレーベルごとの個性がはっきりしたジャンルです。名前を知っておくだけで棚の見え方が変わります。
- Stax(スタックス)
- メンフィス発、ハウスバンド(Booker T. & the M.G.'s)による骨太なホーン主体のサウンドが持ち味。汗の匂いがするようなサザン・ソウルの本拠地。
- Motown(モータウン)
- デトロイト発、洗練されたポップ感覚と組織的な制作体制で数々のヒットを生んだ名門。ソウルを“世界に届く音楽”に変えました。
- Atlantic(アトランティック)
- アレサ・フランクリンらを擁した名門。南部のスタジオミュージシャンとニューヨークの企業力を組み合わせるスタイルで数々の名盤を残しました。
- Philadelphia International(フィラデルフィア・インターナショナル)
- ギャンブル&ハフのコンビが率いた、豪華なオーケストレーションが持ち味のレーベル。後のディスコの土台にもなりました。
中古レコード店でソウル・ファンクを掘るコツ
45回転シングル(7インチ)も主戦場。ソウル・ファンクは、LPだけでなく2曲入りの7インチ・シングル(通称45)で聴かれてきた歴史が長いジャンルです。中古店の「7インチ」コーナーも覗いてみると、LP未収録の名演に出会えることがあります。
“ブレイク”がヒップホップの素材になった。ファンクのドラムだけが際立つ間奏部分(ブレイク)は、のちのヒップホップのサンプリング素材として掘り返され、一部のレア盤は驚くほど高騰しています。入門段階でそこを追いかける必要はまったくなく、まずは定番LPやベスト盤から聴き始めれば十分に楽しめます。
国内盤の帯と対訳は歌詞を読む近道。ソウルは歌詞の比重が大きいジャンルでもあるので、日本盤に付属する対訳を読みながら聴くと、グルーヴだけでなく歌の内容までぐっと近づきます。
覚えなくていい用語ミニ辞典
最後に、ソウル・ファンク周りでよく見る言葉だけ。忘れたらここに戻ってきてください。
- グルーヴ
- ベースとドラムを中心に生まれるリズムの“ノリ”。ソウル・ファンクにおいて、メロディ以上に重視される感覚です。
- ザ・ワン
- ジェームス・ブラウンが提唱した、1拍目を強く感じさせるファンクのリズム哲学。ファンクの背骨にあたる考え方です。
- ブレイク
- 曲中で楽器隊、特にドラムだけが目立つ間奏部分。ヒップホップのサンプリング文化の重要な源泉になりました。
- ホーンセクション
- トランペットやサックスなど管楽器の一団。サザン・ソウルやファンクの熱量を支える名脇役です。
- 45(フォーティ・ファイブ)
- 1分間45回転で再生する7インチのシングル盤。ソウル・ファンクの現場では、アルバム以上にこの形態で聴かれ、踊られてきました。