クラシック入門
— レコードで聴きはじめる
クラシックは知識より、まず一枚。
「興味はあるけど、どこから聴けばいいのか分からない」。クラシックほどこの言葉を言われるジャンルはありません。この連載は、教科書ではなくレコード店から始める入門です。読み終わる頃には、中古レコード店のクラシック棚が「宝の山」に見えるようになっているはずです。
もくじ
難しく考えない — クラシックも“流行歌”だった
まず一番大事なことから。クラシックは、生まれた当時は「クラシック(古典)」ではありませんでした。モーツァルトのオペラは劇場を満員にする大衆娯楽でしたし、ワルツは社交場で踊るためのダンス・ミュージック、教会のオルガン曲は日曜ごとの実用音楽です。つまりどれも、その時代の“ポップス”だったのです。
だから、正座して聴く必要はまったくありません。部屋を片付けながら流していい。途中の楽章だけ聴いてもいい。眠くなったら寝ていい(本場の演奏会でも寝ている紳士は大勢います)。「わかろう」としなくても、いい音楽は勝手に体に残ります。レコードで聴くクラシックの良いところは、A面が終われば自然と一区切りつくこと。40分の交響曲も「まずA面だけ」でいいのです。
30秒でわかる、時代の地図
クラシックと一口に言っても、300年以上の幅があります。細かい様式の話は全部あとまわしにして、まずはこの4区分だけ頭に入れておけば、レコード店の棚で迷子になりません。
〜1750年ごろ
1750〜1820年ごろ
19世紀
1900年前後〜
※ 300年をたった4行にしたので、専門家が見たら卒倒する雑さです。でも最初の地図はこれで十分。細部は聴きながら書き足していけばいいのです。
編成で選ぶ — 大きい音楽と小さい音楽
作曲家の名前より先に覚えると便利なのが「編成」、つまり何人で演奏している音楽か、です。大人数のオーケストラによる交響曲・管弦楽曲は、映画のような迫力とスケール。ソリストとオーケストラが主役を張り合う協奏曲は、スポーツ観戦にも似た華があります。
いっぽう、数人だけで演奏する室内楽や、ピアノひとつの独奏曲は、演奏家同士の会話をそばで聞くような親密な音楽。実はレコードで聴いて一番“おいしい”のはこちらだと思っています。針を落とす行為と、少人数の生々しい音の相性が抜群にいい。昼間はオーケストラ、夜が更けたら室内楽——気分で選べるようになったら、もう立派なクラシック好きです。
最初の5枚 — 中古で1,000円前後の大名盤
クラシックの中古レコードは、じつは驚くほど安い。かつて大量にプレスされた国内盤の名盤が、状態の良いものでも500円〜1,500円でごろごろ転がっています。まずはこの5枚から。どれも録音数が膨大なので「誰の演奏でもいい」──気に入ってから聴き比べればいいのです。
小川のせせらぎ、鳥の声、嵐、そして嵐のあとの感謝の歌。「音で風景を描く」がそのまま伝わる、最初の一枚の決定版です。
第2楽章は「家路」(遠き山に日は落ちて)の原曲。知っているメロディから入るのは、まったく恥ずかしいことではありません。
照明を落とした部屋、ピアノひとつ。レコードの針音とショパンの夜想曲ほど相性のいい組み合わせを、私はまだ知りません。
伴奏なし、チェロ一本。なのに何も足りなくない。朝のコーヒーのそばに置く音楽としてこれ以上のものはありません。
フランス近代の2大四重奏曲は、よくカップリングで1枚になっています。透明で色彩的で、ロックやジャズの耳でもすっと入れる。当棚のラヴェル室内楽全集①の記事もどうぞ。
中古レコード店でクラシックを掘るコツ
国内盤を恐れないこと。これが最大のコツです。ロックの世界では「オリジナル盤至上主義」がありますが、クラシックの日本盤は世界的に見ても高品質なプレスで、しかも安い。日本語の解説書(ライナーノーツ)が付いているのも入門期には心強い味方です。曲の背景を読みながら聴けば、解説書がそのまま教科書になります。
規格番号は“住所”。ジャケットの背に書かれた「VIC-2167」のような記号は、レーベルとシリーズを表す規格番号です。うちの棚のラヴェルなら、VICはRVC(RCAとエラートの日本発売元)の印。気に入った一枚の番号の前後を探すと、同じシリーズの兄弟盤に出会えます。この“芋づる式”がレコード掘りの醍醐味です。
盤は目で確かめる。中古店では盤をジャケットから出して、明かりに向けて傾けてみましょう。深い傷は音に出ますが、うっすらしたスレはたいてい問題なし。クラシックは静かな場面が多いぶん盤質が音に出やすいので、この一手間だけは惜しまずに。ライナーノーツ欠品などで安くなっている盤は、音だけ聴きたい入門期にはむしろ狙い目です。
覚えなくていい用語ミニ辞典
最後に、レコードの帯や解説書によく出てくる言葉だけ。覚えなくても、ここに戻ってくれば大丈夫です。
- 交響曲(シンフォニー)
- オーケストラのための大規模な曲。ふつう4つの楽章(パート)でできています。1枚のLPにちょうど収まるサイズ感。
- 協奏曲(コンチェルト)
- ソリスト(ピアノやヴァイオリンなど)とオーケストラの共演。主役の見せ場「カデンツァ」が聴きどころ。
- ソナタ
- 独奏楽器(+ピアノ)のための曲。「ヴァイオリン・ソナタ」ならヴァイオリンとピアノの二人きりの音楽です。
- 室内楽
- 数人で演奏する音楽の総称。弦楽四重奏(ヴァイオリン2+ヴィオラ+チェロ)はその王様。
- Op.(オーパス/作品番号)
- 作曲順の通し番号。「Op.27-2」なら作品27の2曲目。月光ソナタの正式な呼び名はこれだったりします。
- 楽章
- 曲の中の章。楽章と楽章のあいだで拍手はしない慣習ですが、レコードの前では針を上げるも自由、そのまま流すも自由。