Listening Guides #2 ─ Jazz

ジャズ入門
— 夜更けの一枚から

分からなくていい。ただ、鳴っていればいい。

「即興が何をやっているか分からない」「難しそう」。ジャズにまつわる悩みは、だいたいこの2つに集約されます。でも安心してください。ジャズの多くは、誰もが知っているメロディ(スタンダード)を演奏することから始まる音楽です。理論は要りません。今夜、部屋の照明を少し落として、この連載の一枚を鳴らしてみてください。

もくじ

  1. ジャズは怖くない — 誰もが知っている曲から始まる
  2. 60秒でわかる、スタイルの地図
  3. 編成で選ぶ — ビッグバンドとコンボ、ピアノレスの緊張感
  4. 最初の5枚 — 夜に鳴らしたい定番
  5. レーベルは“味”で選べる
  6. 中古レコード店でジャズを掘るコツ
  7. 覚えなくていい用語ミニ辞典
1

ジャズは怖くない — 誰もが知っている曲から始まる

ジャズの演奏の多くは「スタンダード」と呼ばれる、ミュージカルや映画のために書かれた既存の名曲を素材にしています。つまり最初に流れるメロディは、実はあなたも聴いたことがある曲であることが多いのです。演奏家たちはそのメロディを一度提示したあと、そこから思い思いに旅に出て(アドリブ=即興)、最後にまたメロディに帰ってくる。この「行って、帰ってくる」構造さえ分かれば、あとは迷子になっても大丈夫。旅の景色を眺めるように聴けばいいのです。

クラシックと同じく、正座は不要です。むしろジャズは会話や食事の背後で鳴っていることを前提に発展してきた音楽。ジャズ喫茶という文化があるように、「聴きながら何かをする」ための音楽としても最高です。

2

60秒でわかる、スタイルの地図

ジャズも100年近い歴史を持つので、まずは4つのスタイルだけ覚えておけば、レコード店の棚で迷いません。

スウィング
1930〜40年代
デューク・エリントン、カウント・ベイシー大編成のビッグバンドで踊るための音楽。華やかで大衆的、いま聴いても文句なしに楽しいダンス・ミュージックです。
ビバップ
1940年代
チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー踊るためではなく“聴く”ための音楽へ。速いテンポと複雑な和音進行で、ジャズが芸術として自立した瞬間です。
クール&ハードバップ
1950年代
マイルス・デイビス、アート・ブレイキービバップの熱を、洗練させたり(クール)、ブルースやゴスペルの体温に近づけたり(ハードバップ)した時代。今日の「ジャズらしいジャズ」の原型です。
モード&フリー
1960年代〜
コルトレーン、オーネット・コールマンコード進行の縛りを外し、音階(モード)や自由な発想で即興する時代。当棚のリー・コニッツ『Motion』もこの空気の中にいます。

※ このあともフュージョン、ネオ・ハードバップと続きますが、まずはこの4つで十分。あとは聴きながら耳が地図を塗り足してくれます。

3

編成で選ぶ — ビッグバンドとコンボ、ピアノレスの緊張感

クラシック同様、ジャズも編成を知ると選びやすくなります。10人以上で演奏するビッグバンドは、映画のオープニングのような高揚感。対して4〜5人程度のコンボ(カルテット、クインテット)は、演奏家同士の駆け引きがそのまま聴こえる親密なサイズです。中古レコード店にもっとも多く並んでいるのはこのコンボ編成で、ジャズの入門にも一番向いています。

コンボの中でも面白いのが、和音を弾くピアノやギターを置かないピアノレス編成。和音の“正解”を示す楽器がいないぶん、各奏者が宙に浮くように自由に動けます。当棚で紹介したリー・コニッツの『Motion』(アルト・サックス、ベース、ドラムスのトリオ)はその好例。記事はこちらから。

4

最初の5枚 — 夜に鳴らしたい定番

ジャズの名盤はクラシック以上に世界中でプレスされ続けているので、中古店でもかなり出会いやすいジャンルです。まずはこの5枚から。どれも「ジャズを一枚だけ」と言われたら真っ先に名前が挙がる定番です。

1
マイルス・デイビス:カインド・オブ・ブルー世界一売れたジャズ・アルバム

1959年録音。コード進行ではなく音階(モード)で即興する“モード・ジャズ”を切り開いた一枚。静かで、青く、何度でも聴き返せます。最初の一枚に困ったら、まずこれ。

2
ビル・エヴァンス:ワルツ・フォー・デビイピアノトリオの最高峰

1961年、ニューヨークのライブハウス「ヴィレッジ・ヴァンガード」での実況録音。ベースのスコット・ラファロとの対話するような演奏は、この録音の直後に彼が事故で急逝したこともあり、伝説的な一枚になりました。

3
ジョン・コルトレーン:バラード激しいコルトレーンが苦手な人にこそ

「コルトレーンは難しそう」という人にまず薦めたい、スタンダード曲だけを穏やかに歌う一枚。1962年録音。夜、静かに流すのに向いています。

4
アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ:モーニンハードバップの熱量を体で

1958年。ゴスペルとブルースの体温そのままの、タイトル曲「モーニン」のイントロだけで一気に引き込まれます。ジャズの“かっこよさ”を一番手っ取り早く体感できる一枚。

5
リー・コニッツ:モーションこの棚からの推薦

ピアノなし、セーフティネットなしの即興が42分。上の4枚に慣れてから聴くと、コード楽器がない自由さがよく分かります。当棚の記事もどうぞ。

5

レーベルは“味”で選べる

ジャズはクラシック以上に「レーベル買い」が成立するジャンルです。レーベルごとに録音の音、ジャケットの雰囲気、選ぶミュージシャンの傾向がはっきりしているので、名前を知っておくだけで棚の見え方が変わります。

Blue Note(ブルーノート)
録音技師ルディ・ヴァン・ゲルダーによる深みのある音と、リード・マイルスによるデザイン性の高いジャケットで知られる名門。ハードバップの本拠地。
Verve(ヴァーヴ)
ノーマン・グランツが興したレーベルで、スイング世代の大御所からモダン・ジャズまで懐が深い。当棚の『Motion』もここの原盤です。
Prestige(プレスティッジ)
低予算・短時間録音のライブ感が持ち味。マイルスやコルトレーンの初期の名演を数多く残しています。
Impulse!(インパルス)
オレンジと黒の見開きジャケットが目印。コルトレーン後期の“本拠地”で、ジャケットを見ただけで棚から抜きたくなるシリーズです。
6

中古レコード店でジャズを掘るコツ

“帯”は日本盤の宝物。国内盤ジャズLPの側面についている紙の帯(おび)には、解説やキャッチコピーが刷られています。当時のジャズ喫茶文化やライナーノーツの充実ぶりも含めて、日本盤は世界的に見ても情報量が豊富。オリジナルの米盤にこだわりすぎず、まずは国内盤から聴き始めるのが賢い入り口です。

オリジナル盤幻想とは、ほどよい距離感で。ジャズの世界には「初期プレスでなければ」という熱心な文化がありますが、入門段階でそこにこだわる必要はまったくありません。何十年も再発され続けている名盤は、それだけ音楽そのものの価値が証明されている証拠。まずは音を聴くこと、それで十分です。

ライナー欠品盤は狙い目。解説書や帯が欠けている盤は、状態が完璧なものより安く売られていることが多い一方、盤自体のコンディションは問題ないことがほとんど。当棚の『Motion』(700円)もまさにこのパターンでした。読み物は図書館やこの連載で補えばいい、と割り切るのも中古レコードの楽しみ方のひとつです。

7

覚えなくていい用語ミニ辞典

最後に、ジャケットや帯によく出てくる言葉だけ。忘れたらここに戻ってくれば大丈夫です。

スタンダード
ミュージカルや映画のために書かれ、多くのジャズ演奏家が繰り返し取り上げる定番曲。同じ曲の聴き比べもジャズの楽しみ方のひとつ。
アドリブ(即興)
その場で作り出される演奏。上手い・下手ではなく、演奏家同士の“会話”として聴くと面白さが分かります。
コンボ
数人程度の小編成グループ。カルテット(4人)、クインテット(5人)など人数で呼び名が変わります。
セッション
録音や演奏の一回分の集まり。同じ曲でもセッションが違えば演奏はまったくの別物になります。
原盤/再発盤
最初に出たプレスが原盤(オリジナル)、その後改めてプレスされたものが再発盤。音質や価格に差が出ることがありますが、入門期は再発盤でまったく問題ありません。
Deep Digging ─ もっと深く ジャズ深掘り — 誰が誰と鳴らしているか
読む →
Next ─ 連載第3回 シティ・ポップ入門 — 日本の夏を発明した人たち
読む →

← レコード棚トップに戻る