Deep Digging #2 ─ Jazz

ジャズ深掘り
— 誰が誰と鳴らしているか

同じ曲を、何度でも。同じ人が、あちこちに。

これは「ジャズ入門 — 夜更けの一枚から」の続きです。まだの方は先にそちらをどうぞ。入門の5枚に慣れてきたら、次に見えてくるのは「同じ曲が何度も録音される文化」と「同じ演奏家があちこちのアルバムに顔を出す蜘蛛の巣」です。この2つが分かると、棚の見え方がまったく変わります。

もくじ

  1. 「入門」を終えた人へ
  2. 同じスタンダードを聴き比べる
  3. パーソネル(共演者)を辿る沼
  4. レーベルとエンジニアという名脇役
  5. 次の一歩 — 入門の5枚、それぞれの続き
  6. 中古レコードをサイドマンから掘るコツ
  7. 深掘り用語辞典
1

「入門」を終えた人へ

入門編では「スタンダードから始まる」という話をしました。この先の深掘りは、その裏返しです。同じスタンダードを何十人もの演奏家が繰り返し録音し、同じ演奏家が何十枚ものアルバムに客演として顔を出す——ジャズは「曲」より「人」を追いかけたほうが、はるかに面白く広がっていくジャンルです。

2

同じスタンダードを聴き比べる

「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」という定番曲ひとつでも、マイルス・デイビスのライブ版(1964年)は張り詰めた緊張感でじりじりと展開し、チェット・ベイカーの歌入りヴァージョン(1954年)は気だるく甘い青春の空気をまとっています。同じメロディ、同じ歌詞なのに、まるで別の曲です。中古店で同じ曲名のレコードを見つけたら「もう持っている曲だ」とスルーせず、誰の演奏かを確認する癖をつけてみてください。

3

パーソネル(共演者)を辿る沼

ジャケットの裏に小さく印刷された参加メンバー表、いわゆるパーソネルは、ジャズを深掘りするための最強の地図です。当棚の『Motion』でドラムを叩いているエルヴィン・ジョーンズは、実はジョン・コルトレーンの黄金カルテットの中心人物でもあります。ひとりのドラマーが、コニッツのようなクールで理知的な演奏にも、コルトレーンのスピリチュアルで激しい演奏にも寄り添える——これに気づくと、ジャンルの垣根そのものが溶けていきます。気に入った1枚のパーソネルを覚えて、同じ名前を別の棚で探す。これがジャズの掘り方の核心です。

4

レーベルとエンジニアという名脇役

入門編でレーベルの“味”の話をしましたが、もう一歩深掘りすると録音エンジニアという名脇役が見えてきます。中でも伝説的なのがルディ・ヴァン・ゲルダー。Blue NoteやPrestige、Impulse!の名盤の多くを手がけた彼の音は、太くセンターに定位したピアノとホーンの分離の良さで知られ、レコードの内周(無音溝)に刻まれた「RVG」の刻印は、いまも中古コレクターが探す目印のひとつです。誰が演奏したかだけでなく、誰が録ったかにも耳を澄ませてみてください。

5

次の一歩 — 入門の5枚、それぞれの続き

ジャズ入門で紹介した5枚を起点に、次に手を伸ばしてほしい一枚をそれぞれ用意しました。

1
カインド・オブ・ブルーの次は → ジョン・コルトレーン:A Love Supremeモードの、その先の祈りへ

『カインド・オブ・ブルー』に参加していたコルトレーンが、自身のカルテットで突き詰めたスピリチュアル・ジャズの金字塔。1965年。

2
ワルツ・フォー・デビイの次は → Sunday at the Village Vanguard実は“同じ日”の記録

『ワルツ・フォー・デビイ』と同じ1961年6月25日、同じヴィレッジ・ヴァンガードでの録音から編まれた、いわば兄弟盤。聴き比べるというより、続きを聴く感覚です。

3
バラードの次は → Duke Ellington & John Coltrane穏やかなコルトレーンをもう一枚

1962年、大御所デューク・エリントンとの共演盤。世代もキャリアも違う2人が、スタンダードの中で静かに対話します。

4
モーニンの次は → ホレス・シルバー:Song for My Fatherハードバップのもう一つの顔

1964年。ラテンのリズムを取り入れたタイトル曲は、ジャズ史でも指折りの覚えやすいメロディ。ゴスペル一辺倒ではないハードバップの幅を教えてくれます。

5
モーションの次は → オーネット・コールマン:The Shape of Jazz to Comeピアノレスの、さらに先へ

1959年。コード進行そのものから自由になったフリー・ジャズの出発点。ピアノレス編成の自由さが、コード楽器なしでどこまで行けるかを示した一枚です。

6

中古レコードをサイドマンから掘るコツ

リーダー名より先に、参加者名で検索する。気に入ったドラマーやベーシストの名前を覚えたら、中古店の棚を「リーダー名のアルファベット順」ではなく「あの人が入っていないか」という視点で見てみましょう。同じ棚でも見え方がまったく変わります。

盤の内周(無音溝)を覗いてみる。「RVG」のようなエンジニアの刻印や、マトリクス番号(プレスの版を示す記号)が刻まれていることがあります。詳しくならなくても、「ここに情報がある」と知っているだけで中古店での楽しみが増えます。

モノラルとステレオが併売されていた過渡期がある。1950年代末から60年代前半のジャズは、モノラルとステレオの両方でプレスされていた時期と重なります。同じ番号違いの盤が並んでいたら、聴き比べてみる価値があります。

7

深掘り用語辞典

入門編の用語辞典に、もう一段深い言葉を足しておきます。

パーソネル
アルバムの参加ミュージシャン一覧。ジャズを深掘りするうえで、作曲家やリーダー名と同じくらい重要な情報です。
サイドマン
リーダーではなく、演奏で参加するミュージシャン。名サイドマンを覚えることが、掘る楽しみの半分を占めます。
ヘッドアレンジ
譜面に書き起こさず、口頭やその場の合わせで作られる簡易的な編曲。セッションの空気感がそのまま音に残ります。
RVGスタンプ
録音エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーが手がけた盤の無音溝に刻まれる刻印。彼が関わった録音を見分ける手がかりです。
ワンホーン・カルテット
サックスやトランペットなど、管楽器がひとりだけの4人編成。管楽器が複数いる編成とは違う、すっきりした見通しの良さが持ち味です。
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