Into the Swamp #2 ─ Jazz

ジャズ沼
— テイクとオリジナル至上主義の奥底へ

同じセッションの、別のテイク。それだけでもう一晩語れる。

これは「ジャズ深掘り — 誰が誰と鳴らしているか」のさらに先です。深掘りではパーソネルとエンジニアの話をしましたが、この沼ではもう一段細かく、同じセッションの中の“別のテイク”や、盤そのものの物理的な違いにまで踏み込みます。

もくじ

  1. 「深掘り」のさらに先へ
  2. アウトテイクの沼
  3. オールアナログ再発という信仰
  4. モノラル至上主義という宗派
  5. レーベル面で年代を当てる沼
  6. 幻のセッションが発見される日
  7. 沼用語辞典
1

「深掘り」のさらに先へ

深掘り編では、パーソネルとエンジニアという“人”の話をしました。この沼ではその先、同じセッションの中に複数存在する「別のテイク」と、盤そのものの物理的な履歴を追いかけます。ここまで来ると、もう新しい曲を探しているというより、すでに知っている曲の“別バージョン”を集めている状態です。

2

アウトテイクの沼

ジャズのスタジオセッションでは、1曲につき何テイクも録音され、その中からリーダーやプロデューサーが「これぞ」という1本を選んで発表するのが通例でした。後年、完全盤(コンプリート・セッション)と呼ばれる形で、採用されなかった別テイクがまとめてリリースされることがあり、同じ曲・同じメンバーのわずかに違うアプローチを聴き比べられます。「なぜこのテイクが採用されたのか」を考えながら聴くのは、ジャズ沼の醍醐味のひとつです。

3

オールアナログ再発という信仰

近年、オリジナルのアナログ・マスターテープから、デジタルを一切介さずにカッティングし直す“オールアナログ”をうたう高音質再発シリーズが人気を集めています。名門レーベルの名盤が、現代の優れたマスタリング技術で蘇るこの潮流は、オリジナル盤の高騰と入手困難という現実に対する、もうひとつの答えでもあります。オリジナル盤か、現代の高音質再発か——どちらを選ぶかも、ジャズ沼の住人にとって尽きない話題です。

4

モノラル至上主義という宗派

1950年代末から60年代にかけて、多くのジャズ名盤はモノラルとステレオの両方でプレスされましたが、当時はまだモノラルが主流で、エンジニアが最も心血を注いでミックスしたのはモノラル盤だった、という考え方があります。ステレオ盤は後発の“オマケ”的な扱いだったこともあり、コレクターの中には「このアルバムはモノラルでなければ本当の姿が分からない」と語る人も少なくありません。真偽を確かめる一番の方法は、結局のところ自分の耳で両方を聴き比べることです。

5

レーベル面で年代を当てる沼

Blue Noteのレーベルは、初期の「ニューヨーク・47番街」の住所が印字された時代のものと、のちにリバティ・レコードの傘下に入って以降のものとでデザインが異なります。クラシック沼で触れたレーベル考古学と同じ発想で、盤の中央に貼られた紙の意匠を見るだけで、そのプレスがどの時代のものかを推測できるようになります。中古店で盤を手に取ったら、ジャケットだけでなくレーベル面もめくって確認する癖をつけてみてください。

6

幻のセッションが発見される日

ジャズ史には、録音されたはずなのに長年行方が分からなかったセッションがいくつも存在します。ジョン・コルトレーンが1963年に録音しながら未発表のままだったセッションが、2018年になって発見され、正式なアルバムとして日の目を見た例はその象徴です。半世紀以上経ってから“新しいコルトレーン”が聴けるという出来事は、ジャズが録音物として保存されている文化だからこそ起こる奇跡だと言えます。

7

沼用語辞典

最後に、この沼でよく見かける言葉だけ。忘れたらここに戻ってください。

アウトテイク
録音はされたものの、発表盤には採用されなかったテイク。後年、完全盤の形でまとめて発表されることがあります。
オールアナログ・マスタリング
デジタル変換を経ず、アナログのマスターテープから直接カッティングを行う再発手法。高音質再発シリーズの売り文句としてよく使われます。
モノラル至上主義
ステレオ普及期の作品について、モノラル・ミックスの方が本来の意図に近いとする考え方。真偽は盤とスピーカー次第です。
レーベル面
盤の中央に貼られた紙の部分。デザインの変遷を知ることで、プレスされた年代の見当がつけられます。
幻のセッション
録音されながら長年発表されなかった音源。数十年後に発見され、正式にリリースされることがあります。
The Laboratory ─ さらに先へ ジャズ研究室 — 採譜と批評という学問へ
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