Deep Digging #3 ─ City Pop

シティ・ポップ深掘り
— 歌手より先に、書いた人を見る

歌っている人の後ろに、いつも同じ顔ぶれがいる。

これは「シティ・ポップ入門 — 日本の夏を発明した人たち」の続きです。まだの方は先にそちらをどうぞ。入門編ではスタジオミュージシャンのクレジットに触れましたが、深掘りではさらに一歩進んで「誰が詞を書き、誰が音を設計したか」という視点で棚を眺め直します。

もくじ

  1. 「入門」を終えた人へ
  2. 松本隆という共通言語 — 作詞家買いのすすめ
  3. アレンジャーを聴く — 音を設計する人
  4. 歌詞の中の“記号”を読む
  5. 次の一歩 — 入門の5枚、それぞれの続き
  6. 中古レコードをクレジットから掘るコツ
  7. 深掘り用語辞典
1

「入門」を終えた人へ

入門編で「スタジオミュージシャンのクレジットを追う」という掘り方を紹介しました。深掘りではその輪をもう少し広げて、演奏者だけでなく作詞家編曲家(アレンジャー)にも目を向けます。歌手が変わっても、詞や音の設計図を書いている人が同じであることは珍しくありません。むしろその“同じ手”を追いかけることこそが、シティ・ポップというジャンルの地図の描き方です。

2

松本隆という共通言語 — 作詞家買いのすすめ

その筆頭が松本隆です。はっぴいえんどのドラマーとしてバンドを解散したのち、作詞家に専念し、盟友・大瀧詠一の『A LONG VACATION』の詞の多くを手がけました。松本隆はその後、松田聖子や郷ひろみをはじめとする歌謡曲・アイドルポップスの世界にも詞を提供し続け、シティ・ポップと歌謡曲を地続きにする役割を果たしています。1枚のジャケットの隅に「作詞:松本隆」の文字を見つけたら、それだけで“当たり”の確率が上がる——それくらい強い共通言語です。

3

アレンジャーを聴く — 音を設計する人

ロック深掘りで「プロデューサーという影の主役」の話をしましたが、日本のシティ・ポップ/歌謡曲の世界でその役割を強く担ったのがアレンジャーです。

大村雅朗
松田聖子をはじめとする80年代アイドル歌謡の音を数多く設計した名アレンジャー。歌謡曲とシティ・ポップの音作りをつなぐ重要人物です。
清水信之
大貫妙子や尾崎亜美など、透明感のある女性シンガーソングライターの作品を数多く手がけたアレンジャー。繊細なシンセの使い方が持ち味です。
山下達郎(セルフアレンジ)
自身の作品だけでなく、妻でもある竹内まりやの作品のプロデュース・編曲も多く手がけました。ひとつの制作チームとして棚を眺めると発見があります。

※ アレンジャーのクレジットは、演奏者クレジットよりさらに小さく印刷されていることが多いので、老眼鏡ならぬ“中古盤鏡”が欲しくなる沼です。

4

歌詞の中の“記号”を読む

シティ・ポップの歌詞には、車種や地名、ブランド名といった具体的な固有名詞がしばしば登場します。これは単なる装飾ではなく、当時のリスナーが憧れた“豊かな生活”を一瞬で立ち上げるための記号でした。高速道路、リゾート地、外国製の車——歌詞の中の固有名詞をひとつずつ拾っていくと、バブル前夜の日本人が何に憧れていたかという時代の空気そのものが見えてきます。メロディだけでなく、歌詞の中の“小道具”にも耳を澄ませてみてください。

5

次の一歩 — 入門の5枚、それぞれの続き

シティ・ポップ入門で紹介した5枚を起点に、次に手を伸ばしてほしい一枚をそれぞれ用意しました。

1
A LONG VACATIONの次は → 大瀧詠一:NIAGARA MOONロンバケ以前の、実験精神へ

1975年。ロンバケの洗練にたどり着く前の、ナイアガラ・サウンドの実験精神と手作り感がまだ生々しく残る一枚です。

2
FOR YOUの次は → 角松敏生:SEA IS A LADYAOR/フュージョン系譜のさらに奥へ

1985年。山下達郎と並んでAOR/フュージョン系譜を担った角松敏生の代表作。より打ち込みとフュージョンに接近したメロウな夜の音です。

3
COBALT HOURの次は → 大貫妙子:SUNSHOWER都会的な洗練の、もう一つの声

1977年。編曲の一部を、のちにYMOを結成する坂本龍一が手がけたことでも知られる、透明感あふれる一枚。ユーミンとはまた違う都会の憂愁です。

4
Timely!!の次は → 竹内まりや:VARIETY夫婦制作チームの代表作

1984年。プロデュースと編曲の多くを夫である山下達郎が手がけた一枚で、収録曲「プラスティック・ラブ」は2020年代の海外での再評価の震源地にもなりました。

5
トロピカル・ダンディーの次は → イエロー・マジック・オーケストラ:BGM水脈のさらに先、テクノポップへ

1981年。細野晴臣がエキゾチカから電子音楽へと大きく舵を切った先にあるYMOの作品。系譜の地図の「テクノポップ隣接」の水脈につながります。

6

中古レコードをクレジットから掘るコツ

作詞・編曲欄まで読む。歌手名だけでなく、ジャケット裏の小さな作詞・作曲・編曲クレジットまで目を通す癖をつけると、同じ書き手・同じ音の設計者を軸にした新しい棚の歩き方ができるようになります。

見本盤も面白い。「見本盤」と印刷された非売品の販促用レコードが中古市場に流れていることがあります。ジャケットや帯のデザインが通常盤と異なることもあり、コレクターズアイテムとしての側面も持っています。

海外の再評価コンピも手がかりになる。2010年代後半以降、海外レーベルが編んだシティ・ポップのコンピレーション盤がいくつも登場しました。知らないアーティストがどのコンピに選ばれているかを見ると、次に掘るべき名前のヒントになります。

7

深掘り用語辞典

入門編の用語辞典に、もう一段深い言葉を足しておきます。

作詞家買い/アレンジャー買い
歌手ではなく、詞や編曲を手がけた人を軸にレコードを探す掘り方。ジャズのサイドマン買いのシティ・ポップ版です。
見本盤
販売店やメディアへの配布用に作られた非売品のレコード。ジャケットや帯が通常盤と異なることがあります。
セルフカバー
作曲者自身が、提供した楽曲を後年改めて自分名義で録音し直すこと。聴き比べの新しい入り口になります。
再評価コンピレーション
海外レーベルなどが編んだ、シティ・ポップの名曲・隠れた名曲を集めた編集盤。知らないアーティストとの出会いの入り口です。
Into the Swamp ─ もっと深く シティ・ポップ沼 — 機材とスタジオの奥底へ
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Deep Digging ─ 次の深掘り ロック深掘り — バンドの家系図を辿る
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