Deep Digging #4 ─ Rock

ロック深掘り
— バンドの家系図を辿る

解散も脱退も、次の名盤の始まりだった。

これは「ロック入門 — 型にはまらない聴き方」の続きです。まだの方は先にそちらをどうぞ。ロックの深掘りで面白いのは、バンドが解散したり誰かが脱退したりするたびに、新しい系譜が枝分かれしていくこと。そして、ある曲の“決定版”が、必ずしも最初に録音したバンドのものとは限らないことです。

もくじ

  1. 「入門」を終えた人へ
  2. カヴァーが原曲を超える瞬間
  3. バンドの家系図を辿る沼
  4. ミックスとリマスターの沼
  5. 次の一歩 — 入門の5枚、それぞれの続き
  6. 中古レコードを系譜から掘るコツ
  7. 深掘り用語辞典
1

「入門」を終えた人へ

入門編では「バンドの化学反応」と「一人の作家性」という2つの作り方の話をしました。深掘りではその先、バンドという単位そのものが枝分かれし、組み替わっていく様子を追いかけます。ロックは解散や脱退が終わりではなく、むしろ新しい系譜の始まりであることが驚くほど多いジャンルです。

2

カヴァーが原曲を超える瞬間

ロックには強いカヴァー文化があります。象徴的なのが、ボブ・ディランの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」。ディラン自身のオリジナルは静かなフォークソングでしたが、翌年ジミ・ヘンドリックスが激しいギターで再解釈したヴァージョンは、今では多くの人にとって“決定版”として記憶されています。原曲とカヴァー、どちらが先かを忘れて、まっさらな気持ちで聴き比べてみてください。

3

バンドの家系図を辿る沼

1960年代のイギリスのバンド「ヤードバーズ」は、ロック史でも屈指の“家系図の起点”です。在籍したギタリストのエリック・クラプトンは脱退後ジョン・メイオールのバンドを経てクリームを結成し、後任のジェフ・ベックはジェフ・ベック・グループを、さらにその後任のジミー・ペイジはレッド・ツェッペリンを結成しました。1つのバンドから、後のロック史を代表する3つの系譜が枝分かれしたのです。気に入ったギタリストやドラマーの「元いたバンド」「後に結成したバンド」を調べていくと、棚がどんどん広がっていきます。

4

ミックスとリマスターの沼

同じアルバムでも、発売時期によってミックスやマスタリングが異なることがあります。たとえば『アビイ・ロード』は、2019年の50周年記念盤でプロデューサーの息子ジャイルズ・マーティンによる新たなリミックスが施され、1969年のオリジナル・ミックスとは音像の広がりや低音の量感が変わりました。「同じ曲なのに音が違う」という経験は、クラシックの版の沼、ジャズのモノラル/ステレオの沼と同じ構造です。中古店で年代の違う盤を見つけたら、聴き比べてみる価値があります。

5

次の一歩 — 入門の5枚、それぞれの続き

ロック入門で紹介した5枚を起点に、次に手を伸ばしてほしい一枚をそれぞれ用意しました。

1
アビイ・ロードの次は → ザ・ビートルズ:Revolverスタジオ実験の始まりへ

1966年。ライブ活動をやめてスタジオ制作に専念し始めた転換点。テープの逆再生やインド音楽の導入など、後年の実験の種がすでにここにあります。

2
レッド・ツェッペリンⅣの次は → Physical Graffitiリフの快感の、その先の広がりへ

1975年の大作2枚組。ハードロックの枠に収まらない、フォークやファンクの要素まで飲み込んだ懐の深さが聴きどころです。

3
スティッキー・フィンガーズの次は → Exile on Main St.ブルースの、さらに泥臭い側へ

1972年。フランスの邸宅の地下室で録音された、埃っぽく猥雑な音像が持ち味の大作。ストーンズのブルース愛が最も濃く出た一枚とも言われます。

4
フリートウッド・マック『噂』の次は → Tusk大成功への、あえての反動

1979年。『噂』の大成功のあと、リンジー・バッキンガムの意向で意図的に実験的・内省的な方向へ舵を切った2枚組。ヒットの後に何をするか、というバンドの選択が聴けます。

5
The Ballad of Todd Rundgrenの次は → Something/Anything?“一人多重録音”の完成形へ

1972年。4面中3面をほぼ一人で演奏・録音・プロデュースした、ラングレンの代表作。前作で見せた作家性が、ここで完全に開花します。

6

中古レコードを系譜から掘るコツ

メンバーの「前後」を追う。気に入ったバンドのメンバー紹介やライナーで、脱退・加入の経歴を確認してみましょう。前にいたバンド、後に結成したバンドの両方が、次に掘るべき棚になります。

国や年代でミックスが違うことがある。特に1960〜70年代の作品は、イギリス盤とアメリカ盤で収録曲やミックスが異なる場合があります。同じタイトルでも別物として楽しめることがあるので、規格の違いに気づいたら聴き比べてみてください。

アニバーサリー再発は“新しい体験”と割り切る。周年記念のリマスター/リミックス盤は、オリジナルの代わりというより「もうひとつの聴き方」として楽しむのがおすすめです。両方を持っている必要はありません。

7

深掘り用語辞典

最後に、ロックの深掘りでよく見る言葉だけ。忘れたらここに戻ってください。

リミックス/リマスター
リミックスは録音済みの音源を新たに混ぜ直すこと、リマスターは音量・音質を整え直すこと。同じ曲でも印象が変わります。
バンドの系譜
メンバーの脱退・加入・改名を通じてバンドからバンドへとつながっていく人脈の流れ。ヤードバーズはその代表例です。
カヴァー・ヴァージョン
他者の曲を自分たちの解釈で演奏し直すこと。原曲を超えて“決定版”になることも珍しくありません。
アニバーサリー・エディション
発売から節目の年に、追加音源やリミックスを施して再発される記念盤。オリジナル盤とは別物として楽しむのがコツです。
ブートレグ
非公式に流通したライブ音源や未発表音源のレコード。正規盤とは別の角度からバンドの姿を伝えてくれることがあります。
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