Listening Guides #4 ─ Rock

ロック入門
— 型にはまらない聴き方

ロックに「正しい聴き方」はない。

クラシックやジャズと違い、ロックには「まずこの型を知れば大丈夫」という共通の骨組みがありません。60年で枝分かれしすぎていて、むしろ入り口が多すぎることが迷う原因です。この連載では、系譜をざっくり地図にしたうえで、「誰が音を作っているか」という視点から棚を眺め直してみます。

もくじ

  1. ロックはジャンルというより“態度”
  2. 60秒でわかる、系譜の地図
  3. 誰が音を作っているか — バンドの化学反応と、一人の作家性
  4. 最初の5枚 — まず名前を覚えたい定番
  5. プロデューサーという影の主役
  6. 中古レコード店でロックを掘るコツ
  7. 覚えなくていい用語ミニ辞典
1

ロックはジャンルというより“態度”

ブルースから生まれ、ダンスミュージックとして始まったロックンロールは、60年のあいだに驚くほど多方向に分裂しました。優しい弾き語りも、耳をつんざく轟音も、同じ「ロック」という棚に並んでいます。共通しているのはサウンドの形ではなく、「既存のやり方に収まらない」という態度そのものだと思います。だから最初に必要なのは知識ではなく、地図です。

2

60秒でわかる、系譜の地図

ロックの全史を語るのは無理でも、まずはこの4つの水脈だけ押さえれば、レコード店の棚の見え方が変わります。

ブリティッシュ・
インベイジョン
1960年代
ビートルズ、ローリング・ストーンズアメリカのロックンロールとブルースをイギリスの若者が再輸出し、世界中を席巻した時代。今日の「バンド」という形の基準を作りました。
ハードロック/
プログレ
1970年代前半
レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイド音量と演奏技術、そして曲の構成そのものを拡張していった時代。「アルバムを通しで聴く」体験の価値が高まりました。
シンガー
ソングライター系
1970年代
キャロル・キング、トッド・ラングレンバンドではなく個人の作家性が前面に出る一派。当棚のラングレンもここ。プロデュースまで一人でこなす“一人多重録音”はこの時代の発明です。
パンク/
ニューウェイヴ
1970年代後半〜
セックス・ピストルズ、トーキング・ヘッズプログレの技巧主義への反動として生まれた、性急でシンプルな衝動の音楽。「うまく弾けなくてもいい」という態度の解放でもありました。

※ この後もオルタナ、グランジと続きますが、まずはこの4つの水脈で十分。棚の中の“だいたいの位置”さえ掴めれば、あとは芋づる式に広がっていきます。

3

誰が音を作っているか — バンドの化学反応と、一人の作家性

ロックを聴き分ける便利な軸のひとつが、「バンド」なのか「個人」なのか、です。複数のメンバーが持ち寄るバンドは、意見のぶつかり合いから生まれる化学反応が魅力。メンバーの相性が変わればサウンドもがらりと変わります。

一方、当棚で紹介したトッド・ラングレンのように、演奏からプロデュース、エンジニアリングまで一人でこなす作家もいます。『The Ballad of Todd Rundgren』は、まさにその作家性がむき出しになった一枚。当棚の記事もどうぞ。バンドの熱量を聴くか、一人の頭の中を覗くか——気分で選べるようになると、ロックの聴き方がぐっと広がります。

4

最初の5枚 — まず名前を覚えたい定番

ロックの中古レコードは市場が大きい分、状態や版によって値段の幅も大きいジャンルです。まずは名前を知っておくと後々役立つ、この5枚から。

1
ザ・ビートルズ:アビイ・ロードまずここから

1969年。バンドとしての解散が近づく中で作られた、後半のメドレー構成が壮麗な一枚。「バンドサウンドとは何か」の基準がここにあります。

2
レッド・ツェッペリン:Ⅳリフの快感を体で

1971年。「天国への階段」収録。ギターリフとドラムの重量感が、ハードロックというジャンルの説得力そのものです。

3
ザ・ローリング・ストーンズ:スティッキー・フィンガーズブルースの体温

1971年。ブルースに根ざした乾いたグルーヴ。アンディ・ウォーホルによる本物のファスナー付きジャケットでも有名な一枚です。

4
フリートウッド・マック:噂バンド内恋愛のドラマも込みで

1977年。メンバー同士の破局の渦中で作られた、皮肉にも極上のポップ・ロック。歌詞の刺々しさと演奏の美しさのギャップが聴きどころです。

5
トッド・ラングレン:The Ballad of Todd Rundgrenこの棚からの推薦

失恋から生まれた、内省的なピアノ・バラード集。バンドの熱狂とは対極にある、一人の作家の静かな一枚として。当棚の記事もどうぞ。

5

プロデューサーという影の主役

ロックのレコードを聴き比べていくと、演奏者と同じくらいプロデューサーの個性が音を決めていることに気づきます。ビートルズの音作りを支えたジョージ・マーティン、分厚いオーケストレーションで知られるフィル・スペクター(そのウォール・オブ・サウンドは、当棚の大瀧詠一『A LONG VACATION』にも流れ込んでいます)。ジャケットの裏に小さく書かれた「Produced by」の一行は、演奏者名と同じくらい追いかける価値があります。

6

中古レコード店でロックを掘るコツ

配給レーベルの変遷が値段を左右する。同じアルバムでも、レーベルが独立系から大手に切り替わるタイミングをまたいでプレスが変わることがあります。当棚のラングレン盤も、Bearsville Recordsの配給がAmpexからワーナーに移る1972年の前後でプレスの位置づけが変わる一例。規格の端に小さく刷られたロゴまで見る癖をつけると、同じ盤でも“どの時期のプレスか”が読めるようになります。

国内盤は決して“劣化版”ではない。洋楽ロックの世界ではオリジナル盤信仰が強く語られますが、日本盤には日本語の解説書やときには追加曲が付くこともあり、情報量では国内盤に軍配が上がることも珍しくありません。予算と目的(聴きたいのか、集めたいのか)で選べば十分です。

ジャケットの状態は「棚に立てたときの見え方」で判断。ロックのジャケットはアートワークそのものが鑑賞対象。多少の擦れは味になりますが、折れやシミは見た目にも音にも影響しやすいので、レコード自体だけでなくジャケットの状態もあわせて確認しましょう。

7

覚えなくていい用語ミニ辞典

最後に、ロックのジャケットや解説でよく見る言葉だけ。忘れたらここに戻ってください。

リフ
曲を通して繰り返される短いギター(または他の楽器)のフレーズ。ハードロックの快感の核はだいたいここにあります。
コンセプト・アルバム
1曲ずつではなく、アルバム全体で一つの物語やテーマを描く作品。プログレ以降、片面を通して聴く価値のあるアルバムが増えました。
プロデューサー
録音全体の音作りや方向性を統括する役割。演奏者と同じくらい、そのアルバムの“顔”を決める存在です。
B面(Bサイド)
シングル盤の裏面。ヒット曲が入るA面とは違う、実験的だったり隠れた名曲が入っていたりする面として愛好されます。
オリジナル盤/再発盤
最初に出たプレスがオリジナル、その後のプレスが再発盤。ロックでは配給レーベルの変遷が絡むことも多く、掘る楽しみのひとつです。
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