Into the Swamp #4 ─ Rock

ロック沼
— マトリクスとブートレグの奥底へ

正規盤に載らなかった音楽にも、歴史がある。

これは「ロック深掘り — バンドの家系図を辿る」のさらに先です。深掘りではミックスとバンドの系譜の話をしましたが、この沼ではさらに盤そのものの刻印と、正規のカタログの外側にある音楽文化にまで踏み込みます。

もくじ

  1. 「深掘り」のさらに先へ
  2. マトリクス刻印を読む沼
  3. ブートレグ文化の歴史
  4. 差し替えジャケット事件
  5. 再生機材という、もうひとつの沼
  6. 幻の音源が公式化される日
  7. 沼用語辞典
1

「深掘り」のさらに先へ

深掘り編では、カヴァー文化とバンドの家系図という“つながり”の話をしました。この沼ではその先、盤そのものに刻まれた物理的な情報と、正規に流通しなかった音楽の文化にまで足を踏み入れます。

2

マトリクス刻印を読む沼

盤の内周、音の入っていない無音溝には、そのプレスを識別するための記号が刻まれています。同じタイトル・同じ規格番号でも、このマトリクス刻印が違えば別の“版”であることを意味し、初回プレスと後年の増刷とで音質や音の傾向に差が出ることがあります。ロックの熱心なコレクターの間では、このマトリクス刻印を頼りに「本物の初回プレス」を探し当てることが、収集の大きな楽しみのひとつになっています。

3

ブートレグ文化の歴史

1969年、ボブ・ディランの未発表音源(のちに「地下室のテープ」として知られる録音)を無許可でレコード化した『グレート・ホワイト・ワンダー』が登場し、これが広く知られる最初期のロック・ブートレグ盤とされています。以後、ライブ音源やリハーサル・テープを非公式に収めたブートレグは、ファンの間で正規盤とは別の角度からアーティストの実像を伝える存在として、独自の文化を築いてきました。

4

差し替えジャケット事件

ザ・ビートルズの米盤アルバム『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』(1966年)は、当初、肉片や壊れた人形に囲まれた過激なジャケット(通称“ブッチャー・カバー”)で発売されましたが、物議を醸して回収され、無難な写真に差し替えられました。回収前のオリジナル・ジャケットは今も高値で取引される伝説的な一枚として語り継がれています。ジャケットそのものが、時に音楽以上の物語を背負うことがあるのです。

5

再生機材という、もうひとつの沼

盤を集め尽くすと、次に沼が広がるのは再生側です。カートリッジやスピーカーが変わるだけで、同じ盤の印象がまったく変わることに気づき始めます。ここから先はレコードそのものではなく、それを鳴らす装置の沼——また別の一連載が必要になるくらい奥が深い世界です。

6

幻の音源が公式化される日

長年ブートレグでしか聴けなかった音源が、権利元によって正式にアーカイブ化され、公式のボックスセットとしてリリースされることがあります。ボブ・ディランの「ブートレグ・シリーズ」はその代表例で、かつて非合法とされていた音源が、皮肉にもシリーズ名にその歴史を刻んだまま正規カタログの一部になっています。非公式の情熱が、いつか公式の歴史に組み込まれる——ロックというジャンルらしい展開です。

7

沼用語辞典

最後に、この沼でよく見かける言葉だけ。忘れたらここに戻ってください。

マトリクス刻印
盤の無音溝に刻まれたプレス識別用の記号。初回プレスと後年の増刷を見分ける手がかりになります。
ブートレグ
権利者の許可を得ずに非公式に制作・流通したレコード。ライブ音源や未発表テープを収めることが多い。
差し替えジャケット
物議や権利上の問題で、発売後にデザインを変更されたジャケット。オリジナル版が高値で取引されることがあります。
カートリッジ/スピーカー沼
再生機材による音の違いにのめり込む、盤集めとはまた別の沼。
公式アーカイブ・シリーズ
かつて非公式にしか出回らなかった音源を、権利元が正式に整理・発売するシリーズ。
The Laboratory ─ さらに先へ ロック研究室 — マスタリングの物理学と批評の文学へ
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